
私たちは日々、膨大な情報に囲まれて生活しています。スマートフォンを開けば、ニュース、広告、SNS、動画、通知が一斉に流れ込み、意識しなくても視界には常に何かしらの情報が存在しています。このような環境では「良い情報を出せば伝わる」「きれいに作れば見てもらえる」という考え方は、すでに通用しなくなっています。むしろ、情報量が増えれば増えるほど、選ばれるためのハードルは高くなり、デザインにはより明確な役割と設計思想が求められるようになりました。本稿では、情報過多時代において人に選ばれ、記憶され、行動につながるデザインに共通するルールについて、考え方の軸から実務への落とし込みまでを丁寧に整理していきます。
情報過多時代に起きている「見られない」という現象
情報が溢れている現代において、多くのデザインは「悪いから見られない」のではありません。「判断する前に除外されている」という状態にあります。人は一日に触れる情報のすべてを処理できるわけではなく、無意識のうちに取捨選択を行っています。この取捨選択は、内容を精査した結果ではなく、ほとんどが直感的な判断によって行われています。
例えば、Webサイトにアクセスした瞬間、数秒以内に「読むか」「離脱するか」が決まると言われています。このとき、ユーザーは文章を読んでいるわけではなく、色、余白、文字量、配置、写真の印象といった視覚的要素から「自分に関係がありそうか」「理解できそうか」「ストレスがなさそうか」を瞬時に判断しています。つまり、情報過多時代のデザインにおいては、内容以前に「受け取ってもらえる状態をつくる」ことが最優先課題となります。
この背景を理解せずに、情報を増やしたり、表現を凝ったりすると、かえって選ばれなくなるケースが増えます。情報が多いからこそ、削ぎ落とし、整理し、安心して見られる構造をつくることが、選ばれるデザインの第一歩となります。
選ばれるデザインは「理解のコスト」を下げている
情報過多時代に選ばれるデザインに共通しているのは、見る側にかかる理解のコストが極端に低いという点です。理解のコストとは、「これは何の情報か」「自分に関係があるか」「どう行動すればよいか」を把握するまでに必要な思考エネルギーのことを指します。
理解のコストが高いデザインは、どれだけ内容が優れていても途中で離脱されてしまいます。反対に、理解のコストが低いデザインは、自然と視線が流れ、無理なく内容が頭に入ってきます。これは、デザインが親切であるかどうかの違いとも言えます。
具体的には、情報の優先順位が明確であること、視線の動きが想定されていること、要素同士の関係性が直感的にわかることなどが挙げられます。すべてを均等に目立たせようとするのではなく、「まずここを見てほしい」「次にこれを理解してほしい」という意図が、配置やサイズ、余白によって自然に表現されている状態です。
情報過多時代のデザインでは、説明しなくても伝わる構造をつくることが重要になります。これは装飾の問題ではなく、設計の問題です。見た目を整える前に、情報の流れを設計できているかどうかが、選ばれるかどうかを大きく左右します。
「目立つ」よりも「安心できる」が選ばれる理由
かつての広告やデザインでは、「いかに目立つか」が重要視されていました。しかし、情報過多時代においては、目立つこと自体が必ずしもプラスにはなりません。派手な色使い、大きな文字、強いコピーは、一瞬の注意は引けても、その後の行動につながらないケースが増えています。
その理由の一つが、情報疲労です。人は日常的に刺激の強い情報にさらされているため、無意識のうちに「疲れそうな情報」「売り込まれそうな情報」を避けるようになっています。その結果、強い表現よりも、落ち着いていて、整理されていて、安心して読めそうなデザインが選ばれる傾向が強まっています。
選ばれるデザインは、見る人に緊張を与えません。視線をどこに置けばよいか迷わせず、理解できない不安を感じさせず、「このまま読んで大丈夫そうだ」という感覚を与えます。この安心感は、配色、余白、文字組み、写真のトーンなど、複数の要素が積み重なって生まれるものです。
情報過多時代におけるデザインの役割は、注目を奪うことではなく、受け入れられる環境を整えることにあります。この視点を持つだけでも、デザインの方向性は大きく変わってきます。
共通ルールは「引き算」と「一貫性」にある
選ばれるデザインを分析すると、必ずと言っていいほど「引き算」と「一貫性」という共通ルールが見えてきます。引き算とは、不要な情報や装飾を削ることだけを意味するのではありません。本当に伝えたいこと以外を手放す勇気を持つことです。
情報過多時代では、「念のため入れておく」「説明不足と思われたくない」という理由で情報が増えがちです。しかし、その結果、何が重要なのかわからなくなり、結局どの情報も伝わらない状態に陥ります。選ばれるデザインは、あらかじめ捨てる情報を決めています。
また、一貫性も非常に重要な要素です。色、書体、トーン、言葉遣い、写真の雰囲気などがバラバラだと、見る側は無意識のうちに違和感を覚えます。この違和感は理解のコストを上げ、離脱の原因になります。一貫性のあるデザインは、それだけで信頼感を生み、「ちゃんと考えられている」という印象を与えます。
引き算と一貫性は、センスの問題ではなく、設計の問題です。ルールを決め、それを守り続けることが、情報過多時代において安定して選ばれるデザインを支えています。
行動につながるデザインは「次の一歩」が明確
情報過多時代に選ばれるデザインは、見た目が整っているだけでは終わりません。最終的には、見る人が「次に何をすればよいか」を迷わず理解できるように設計されています。これが、行動につながるデザインの共通ルールです。
情報が整理され、安心して読めたとしても、その先の行動が曖昧であれば、成果には結びつきません。選ばれるデザインは、押し付けがましくなく、自然な流れで次の一歩を提示します。問い合わせ、来店、資料請求、続きを読むなど、行動の選択肢が明確で、しかも多すぎないことが重要です。
ここでも重要なのは、理解のコストを下げることです。「どうすればいいのか考えさせない」「探させない」ことが、情報過多時代では特に求められます。デザインは、行動を促すための案内役であり、迷路であってはいけません。
行動につながるデザインは、情報設計、視線誘導、心理的な安心感が一体となって機能しています。この全体設計こそが、情報過多時代に選ばれるデザインの最終的な到達点と言えるでしょう。
まとめ
情報過多時代に選ばれるデザインには、いくつかの明確な共通ルールがあります。それは、目立つことよりも理解しやすさを優先し、情報を詰め込むのではなく整理し、見る人の負担を減らす設計がなされているという点です。理解のコストを下げ、安心感を与え、一貫性を保ち、次の行動を自然に示す。この積み重ねが、数ある情報の中から「選ばれる」状態をつくり出します。
デザインは装飾ではなく、情報と人をつなぐための設計です。情報が少なかった時代の常識を手放し、情報過多という前提に立って考えることが、これからのデザインには欠かせません。選ばれるデザインとは、強い表現ではなく、やさしい設計の結果である。その視点を持つことが、あらゆる媒体において成果を生む第一歩となります。





